充電不良の直し方(後編)
こんばんは。スマートまっくす代々木駅前店 副店長の蒲倉でございます。
第二回、第三回と続いてきたテーマ、USBコネクタ不良による充電不良の記事も、これが最終回です。
最後にお伝えするのは、
「パターン剥離」です。
パターン剥離と聞いて、「なるほどそういう事か」とおわかりになる方は、どれくらいいらっしゃるのでしょうか?
ハンダ浮き、USBコネクタ破損なんかは、それだけ聞いてなんとなく中で起こっていることの想像がつきますが、パターン剥離は電子工作の知識がないと全くピンと来ないと思われます。
ならばここは、目で見てわかりやすく! 写真をご用意いたしました。
足が一本浮いています。
原因はコレです。
……
「それ、ハンダ浮きと一緒じゃない?」
その通り!
充電ができなくなる原理としては、第二回でご紹介したハンダ浮きと全く変わりません。
しかし、これはハンダ浮きよりはるかに修理困難な、重大な故障なのです。
次の写真をご覧ください。
同じ基板を、違う角度から撮ったものです。
一番右の足をよくご覧ください。
足が浮いている……というだけではないのがわかりますでしょうか。
基板の一部が足ごと剥がれ、浮き上がってしまっています。
これがパターン剥離です。
このパターン剥離の修理の困難さをお伝えするためには、スマホに使われている基板の構造についてある程度知って頂かなければなりません。
「めんどうくせえ!
使用上どう気を付ければいいのかだけわかれば十分だ!」
そんな方!
4.パターン剥離の原因とはまで、ざっとスクロールしてしまってくださいね。
さて、基板というのは、ざっくり言ってしまえば、薄い電線が内側にたくさん走っている板です。
電線にはあちこちに、のりしろ(「ランド」といいます)がついており、そこにCPUやメモリのチップ、カメラやディスプレイのコネクタがハンダで付けられています。
そして、この基板内部に走る電線のことを、パターンと呼びます。
パターン剥離は、このパターンやランドが千切れて、電気が通らなくなった状態です。
USB不良とはいうものの、実際に破損しているのは基板側なのです。
そして、欠けてしまったパターンを後から補修し、元の形に戻すのは、構造上ほぼ不可能です。
基板の表面には特殊なコーティングが施されており、改めてパターンを載せなおすことができないのです。
しかし、「だから、修理できません」では、修理屋の名折れです。
ではどうするのか?
ここまで書いてきたパターン剥離の問題は二つ。
・パターンが途中で千切れて電気が通らなくなっている。
・千切れたパターンを元通りに修復することは不可能。
……つまり、新たに電気の通る道を作ってあげればいいわけです。
基板表面にパターンを載せることはできませんから、銅線で迂回路を作ります。
電気がきちんと通るかをテスターで確認、実際に充電が増えていくかも確認して修理完了!
この作業は、ハンダ付けの技術と該当端末の基板知識がものをいいます。
本来のパターンがどこからどこへ電気を流していたのか、どのように線を繋げば正常に電気が流れるのか、を熟知していなければなりません。
バイパスとなる銅線を入れるスペースもない、シビアな構造の端末だと、この方法を使えないこともあります。
実際の修理例です。
右から二番目の足がパターン剥離を起こしているため、そこと本来接続されるべきパターンとをバイパスで繋いでいます。
さて、お待たせしました。
このたいへん危険な破損が起こる原因……
その一部をご紹介します。
・充電プラグを挿したままの使用
・不安定な場所での充電
・ケーブルを乱暴に引っこ抜く
・充電したままうっかり蹴とばした
・ハンダ浮きによる接触不良を自力で直せないかと棒を突っ込んでいじくった
……
なんだか見覚えのある文字列だと思いませんか?
その通りです!
これまでの章でご紹介した、ハンダ浮きやコネクタ破損。
それらが起こる原因とほぼ一緒なのです。
長期間、コネクタに負担をかける使い方をし続け、パターンごと足が浮いてきてしまう。
充電中に強い衝撃を加えてしまい、瞬間的にパターンがもげてしまう。
同じ転び方をしても、カスリ傷で済むこともあれば、重傷を負うこともある、といったところでしょうか。
パターン剥離になりやすい状況として、長期間の負担と瞬間的な衝撃の複合も考えられます。
弱ったコネクタに、最後のトドメとして強い衝撃がかかり、パターンが剥がれてしまうのです。
また、ハンダ浮きの章でご紹介した、「壊れやすい構造の端末」では、パターン剥離の起こる危険性も高まります。
さて、三回にわたってご紹介してきた充電コネクタ周りの故障についてですが、いかがでしたでしょうか?
充電不良は、「不便だけどガマンすればいいや」という故障ではありません。
なんか変だな、と思ったら、本格的に使えなくなってしまう前に、まずバックアップ!
これが鉄則です。
ハンダごてを用いる修理にはそれなりのリスクもあります。
修理ご依頼頂く際に、ご心配なことがあったら、いつでもお気軽にお問合せくださいませ。
それでは、今回もお読み頂いてありがとうございました!
今回、基板とパターンの見本として写真を使用した基板はスマートフォン用の基板ではなく、
NPO日本はんだ付け協会様の講習で使用している、ハンダ付け練習用基板です。
サイズが大きく、構造がわかりやすいため、今回例として使用致しました。
使用を快く承諾してくださった、NPO日本はんだ付け協会理事長の野瀬様に、篤くお礼申し上げます。
当店では、はんだ付け協会で実施されているはんだ付け検定において、全員一級取得を目指しております。
現在、関東支店では、代々木駅前店 店長 久保田が一級所持者として、難易度の高いハンダ付け修理を担当しております。
記事編集担当
蒲倉